タマモクロスとは?【競走馬プロフィール】
タマモクロスは、1988年に春の天皇賞と宝塚記念を制し、秋には天皇賞(秋)まで手中に収めた“白い総合王者”です。
同年のJRA年度代表馬に選出され、最優秀4歳以上牡馬・最優秀父内国産馬も受賞しました。
芦毛のロングストライドで早め進出からの持続加速を得意とし、タフな馬場や締まった流れで減速幅の小さい強さを示しました。
秋の大一番ではオグリキャップをねじ伏せ、年末のグランプリは接戦の2着。
“平均以上のラップを刻み続ける”ことで真価を発揮した、王道路線の象徴的存在です。
生年月日 | 1984年5月23日 |
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性別・毛色 | 牡・芦毛 |
生産 | 錦野牧場(北海道・新冠町) |
調教師 | 小原伊佐美(栗東) |
馬主 | タマモ株式会社 |
通算成績 | 18戦9勝 |
主な勝ち鞍 | 天皇賞(春)1988/宝塚記念1988/天皇賞(秋)1988/鳴尾記念(GII)1987/阪神大賞典(GII)1988/スポニチ賞金杯(GIII)1988 |
受賞 | JRA年度代表馬(1988)・最優秀4歳以上牡馬(1988)・最優秀父内国産馬(1988) |
父 | シービークロス |
母 | グリーンシャトー(母父:シャトーゲイ) |
出自・受賞・厩舎・馬主の基礎情報は公的データベースと専門媒体の記載に基づきます。
目次
馬名は青マーカー、戦術・適性などの重要語句は赤マーカーで強調します。
血統背景と特徴
父は国内で活躍したシービークロス、母はグリーンシャトーで、母父は米三冠馬系統のシャトーゲイです。
父系の底スタミナと心肺機能に、母系の直進性と先行力が重なり、“早め進出→直線で減速幅が小さい”という勝ち筋を形成しました。
重めの馬場でも踏ん張れるパワー伝達が強みで、ロングストライドの持続加速と相性が抜群でした。
適性ピークは2000〜3200m帯。
淀・中山の坂、阪神の持久戦など負荷のかかる舞台で真価を示しました。
- 配合メモ①:父系の持久力×母系のスピードで、長手のフォームでも回転の立ち上がりが早い。
- 配合メモ②:良〜稍重のフラット馬場がベスト。
道悪でも推進力を損ないにくい許容幅を持つ。 - フォーム特性:上体のブレが少なく、中盤にラップの谷を作らない運びが可能。
血統・生年月日などの基礎データは公的登録(JBIS)に準拠しています。
デビュー〜頂点までの道程
1987年春にデビューし、未勝利から芝・ダートを問わず経験を積みました。
秋には条件戦を連勝で突破し、暮れの鳴尾記念で重賞初制覇。
翌1988年は年明けのスポニチ賞金杯からスタートし、阪神大賞典を押し切って長距離適性を可視化しました。
春の大舞台天皇賞(春)では、持久力勝負を力でねじ伏せて戴冠。
続く宝塚記念は中距離の総合力を示す完勝で、上半期の主役に躍り出ます。
秋は天皇賞(秋)でオグリキャップを封じて三つ目の大冠を獲得。
その後ジャパンCは海外馬ペイザバトラーの2着、有馬記念はオグリキャップの2着と惜敗が続きますが、年間を通じて王者の普遍値を証明しました。
この一年の総合的なパフォーマンスが評価され、年度代表馬に選出されました。
- 成長曲線:3歳秋にスイッチが入り、4歳春〜秋が絶対値のピーク。
- 臨戦過程:叩きつつ巡航速度を底上げし、本番で早めに回転を上げる王道パターンが合致。
主要勝ち鞍・年度表彰は当時の公的発表・競馬専門媒体の記録に基づきます。
競走成績とレース解説
勝ち筋は、好位〜中団でロスを抑える→向正面〜3角で早め進出→直線で持続勝負に引き込むという王道設計です。
京都の長距離では心肺と姿勢保持が活き、中距離でも巡航速度の高さで押し切れます。
極端な超スローの瞬発一点勝負より、全体が締まった“ラップの谷が浅い”流れで破壊力が増大。
道悪でも推進力を殺さず、減速幅が小さいロングスプリントで上位安定。
- 時計面ハイライト:天皇賞(春)3:21.8(1988・稍)/宝塚記念2:13.2(1988・稍)/天皇賞(秋)1:58.8(1988・良)。
- 距離レンジ:2000〜3200m◎。1800m◯。瞬発一点の1600mは割引き。
- 戦術の肝:中盤で谷を作らない運びと、4角で姿勢を保ったまま直線へ入ること。
比較物差しはオグリキャップ、海外馬ペイザバトラー、中距離の強豪ニッポーテイオー、長距離の相棒格ランニングフリーなど。
持続戦へ誘導できた時の“基礎体力の高さ”が傑出していました。
名レースBEST5
1位|1988年10月30日 天皇賞(秋)(GI)東京芝2000m 良
中盤から長い脚で押し切り、世代の星オグリキャップを完封。
持続加速の極致を示し、年間三つ目の大冠で王者を確定させました。
2位|1988年4月29日 天皇賞(春)(GI)京都芝3200m 稍重
長距離の総合力勝負を心肺の強さでねじ伏せ、春の盾を獲得。
以後の王道路線の土台を築いたターニングポイントです。
3位|1988年6月12日 宝塚記念(GI)阪神芝2200m 稍重
中距離での巡航速度の高さを誇示する完勝。
春の二冠に続いてグランプリ前哨戦を制し、上半期の主役に躍り出ました。
4位|1987年12月6日 鳴尾記念(GII)阪神芝2500m 稍重
差し切りで重賞初制覇。
以後の快進撃へ繋がる器の大きさを初めて明確に示した一戦でした。
5位|1988年11月27日 ジャパンカップ(GI)東京芝2400m 良
世界の強豪ペイザバトラーの2着。
国際舞台でも通用する普遍値と距離可変性を可視化しました。
同世代・ライバル比較
国内の比較軸は、天皇賞(秋)と有馬記念でしのぎを削ったオグリキャップです。
逃げ先行からラップを締め上げるニッポーテイオー、春の盾で相まみえたランニングフリー、国際舞台で対峙したペイザバトラーが物差しになりました。
いずれの相手にも、中盤の谷を作らない持続戦で主導権を握れた時に優位性が際立ちます。
ライバル | 強み | 対策(タマモ流) | 要点 |
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オグリキャップ | 万能型の総合力 | 中盤から締めて持続戦化 | 秋天で完封、グランプリは接戦の2着。 |
ニッポーテイオー | 先行持久力 | 4角前で圧をかけ惰性で封殺 | 宝塚記念で撃破。 |
ランニングフリー | 淀の持久力 | ロングスプリントで抜け出す | 天皇賞(春)で完勝。 |
ペイザバトラー | 国際級の末脚 | 位置と勢いを同時確保 | JCは惜しい2着。 |
競走スタイルと得意条件
理想は良〜稍重×平均〜やや速い流れ×2000〜3200mです。
序盤は好位〜中団でロスなく立ち回り、向正面〜3角で回転を上げつつ進出します。
4角で姿勢を保ったまま直線へ入り、トップスピード到達後は惰性を長く保つのが勝ち筋。
極端な超スローのヨーイドンは割引きで、ラップの谷を作らない道中運びが好走条件でした。
- 向く条件:負荷の掛かる淀・阪神・中山。
直線が長くても早め進出で押し切れる舞台。 - 苦手傾向:隊列が固まり過ぎる超スロー、内で進路を失う展開。
- 実戦Tips:中盤を締め、直線入口で位置×勢いを同時確保。
引退後(種牡馬)とレガシー
1989年から北海道・新冠町のアロースタッドで供用され、幅広い配合を経験しました。
産駒は晩成で持続力に優れるタイプが多く、カネツクロス、マイソールサウンドなど重賞ウィナーを輩出しました。
2003年4月に腸ねん転のため19歳で逝去。
父系の持久力と、王道路線に適う基礎体力を日本の血統地図に刻みました。
- 配合の示唆:持続力を増幅する母系と好相性。
時計の速い芝よりも、負荷の掛かる条件で真価を伝えやすい。 - レガシー:芦毛の王者が体現した“早め進出→直線持続”は、今なお王道路線の理想形。
成績表
日付 | 開催 | レース名 | 着順 | 騎手 | 距離 | 馬場 | タイム | 備考 |
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1987/03/01 | 1阪神2 | 4歳新馬 | 7 | 南井克巳 | 芝2000 | 良 | 2:07.1 | 初陣を経験。 |
1987/03/21 | 1阪神7 | 4歳新馬 | 4 | 南井克巳 | ダ1800 | 重 | 1:56.3 | ダートで前進。 |
1987/04/11 | 2阪神5 | 4歳未勝利 | 1 | 南井克巳 | ダ1700 | 稍 | 1:48.3 | 待望の初勝利。 |
1987/05/10 | 3京都6 | 4歳400万下 | 中 | 南井克巳 | 芝2000 | 良 | - | 競走中止。 |
1987/06/28 | 1札幌6 | 4歳以上400万下 | 6 | 田原成貴 | ダ1800 | 良 | 1:55.6 | 立て直し。 |
1987/07/11 | 2札幌1 | 礼文特別(400万下) | 2 | 安田富男 | ダ2000 | 良 | 2:07.1 | 距離延長で好走。 |
1987/09/19 | 4阪神3 | 能勢特別(400万下) | 3 | 南井克巳 | ダ1800 | 良 | 1:55.0 | 地力示す。 |
1987/10/04 | 4阪神8 | 4歳以上400万下 | 3 | 南井克巳 | ダ1700 | 良 | 1:47.9 | クラス上位確保。 |
1987/10/18 | 4京都4 | 4歳以上400万下 | 1 | 南井克巳 | 芝2200 | 良 | 2:16.2 | 芝替わりで快勝。 |
1987/11/01 | 4京都8 | 藤森特別(400万下) | 1 | 松永幹夫 | 芝2000 | 稍 | 2:03.0 | 連勝で軌道に。 |
1987/12/06 | 5阪神2 | 鳴尾記念(GII) | 1 | 南井克巳 | 芝2500 | 稍 | 2:33.0 | 重賞初制覇。 |
1988/01/05 | 1京都1 | スポニチ賞金杯(GIII) | 1 | 南井克巳 | 芝2000 | 稍 | 2:03.7 | 年明けも快勝。 |
1988/03/13 | 1阪神6 | 阪神大賞典(GII) | 1 | 南井克巳 | 芝3000 | 稍 | 3:12.1 | 長距離で戴冠。 |
1988/04/29 | 3京都3 | 天皇賞(春)(GI) | 1 | 南井克巳 | 芝3200 | 稍 | 3:21.8 | 春の盾を制覇。 |
1988/06/12 | 3阪神8 | 宝塚記念(GI) | 1 | 南井克巳 | 芝2200 | 稍 | 2:13.2 | 上半期の主役。 |
1988/10/30 | 6東京8 | 天皇賞(秋)(GI) | 1 | 南井克巳 | 芝2000 | 良 | 1:58.8 | 年間三冠級の戴冠。 |
1988/11/27 | 7東京8 | ジャパンC(GI) | 2 | 南井克巳 | 芝2400 | 良 | 2:25.6 | 国際G1で健闘。 |
1988/12/25 | 2中山8 | 有馬記念(GI) | 2 | 南井克巳 | 芝2500 | 良 | 2:34.0 | 名勝負の2着。 |
まとめ
タマモクロスは、早め進出→直線持続で王道路線を制圧した芦毛の名馬です。
1988年の春盾・宝塚・秋天制覇で年度代表馬に輝き、国際舞台・グランプリでも高次元の安定感を示しました。
引退後は持続力と心肺の強さを産駒に伝え、日本の中長距離戦線に普遍的な価値を残しました。
その走りは今なお、“ラップの谷を作らない王道”の理想形として語り継がれています。