牝馬

アストンマーチャン完全ガイド|血統・成績・エピソードでたどる生涯

アストンマーチャン






基本プロフィール

馬名:アストンマーチャン(Aston Machan)
生年月日:2004年3月5日/性別:牝/毛色:鹿毛
調教師:石坂正(栗東)/馬主:戸佐眞弓/生産者:社台ファーム(北海道・千歳市)
獲得賞金(JRA):2億4,899万7,000円/通算成績:11戦5勝(重賞4勝、G1・1勝)

アストンマーチャンという存在

アストンマーチャンは、2000年代半ばの日本短距離戦線を鮮烈なスピードと果敢な先行力で沸かせた名牝です。2歳夏の小倉2歳Sで重賞初制覇、ファンタジーSではレコードで圧勝。3歳春にフィリーズレビューを勝ち、秋のスプリンターズS(G1)では不良馬場を逃げ切りで制しました。スタートからトップスピードに乗るまでの速さ、道悪でも崩れないフォームは「短距離の天才」と称されました。

名前の由来と馬主の想い

馬名「アストンマーチャン」は高級車ブランドアストンマーティンと、オーナーの愛称「マーチャン」を掛け合わせたもの。最高のスピードを体現してほしいという願いが込められ、名は体を表す走りで期待に応えました。

生産背景と育成環境

生産は北海道・千歳市の社台ファーム。広大な放牧地で心肺機能と骨量を養い、育成期からゲート練習・坂路調教に取り組みました。幼少期から俊敏な加速と前向きな気性が目立ち、「スプリンターとしての完成度が高い」と評価されていました。

主戦騎手と人間関係

主に武豊騎手中舘英二騎手が手綱を取りました。スプリンターズSの勝利時には中舘騎手が序盤から積極策で主導権を握り、その決断がタイトルに直結。調教師の石坂正師は「前向きな気性は武器」と評しつつ、折り合い強化にも注力していました。






血統背景

父:アドマイヤコジーン

芦毛の名マイラーで、朝日杯3歳S(1998)安田記念(2002)のGI2勝。父系(Cozzene〜Caro)の特徴である柔らかいフットワークと持続的なスピードを伝え、アストンマーチャンにも先行力とスピード持続性能が色濃く受け継がれました。

母:ラスリングカプス(父:Woodman)

母父Woodmanは米国のMr. Prospector系。米国的なパワーとダッシュ力を伝える血で、日本の高速馬場にも適応しやすい軽いスピードを供与。コーナーで減速しにくい機動力や、道悪でスピードが落ちにくい踏み込みは母系の資質と解釈できます。

配合の狙いと特徴

Cozzene(欧州芝適性)×Woodman(米国スピード)という、欧米の長所を掛け合わせたスプリント適性配合。瞬時の加速とラストまで維持する推進力のバランスが優れ、展開に左右されにくい「先行押し切り型」の完成形を狙った配合です。

血統から見た距離適性

ベストは芝1200〜1400m。マイル(1600m)でも善戦可能な一方、トップレベル相手だと最後の1ハロンで甘さが出やすい傾向。逆に1200mではスタート直後からトップスピードに入り、その勢いを落とさず押し切る型が最も力を発揮します。






競走馬としてのデビューまで

幼少期と育成過程

2004年春に北海道・千歳の社台ファームで誕生。離乳後も群れの先頭で走ることが多く、特に短い距離での加速では同世代の中でも目を引く存在でした。育成段階ではゲート練習・坂路調教を早くからこなし、テンの速さと折り合いの両立に重点を置いたメニューで基礎を確立。栗東入厩後は、先行策を基本にしつつも我慢を覚える訓練を重ねています。






主なレース戦績とエピソード(全戦詳解)

2006/7/22 新馬戦(小倉 芝1200m)2着

スタート良く先行。直線で外から差されて惜敗も、同日の上級条件と比較しても遜色ない優秀な走破時計(1:08.2)。武豊騎手は「スピードは抜群。次はあっさり勝てる」と高評価。

2006/8/6 未勝利戦(小倉 芝1200m)1着

先手を奪って直線でも余力十分に押し切り。着差以上の完勝で、陣営は「これで重賞へ行ける」と手応え。

2006/9/3 小倉2歳ステークス(G3)1着

2番手追走から直線入り口でスッと抜け出し重賞初制覇。最後まで集中力を切らさず押し切った内容で、世代の短距離女王候補として注目を集める。

2006/11/5 ファンタジーステークス(G3)1着(レコード1:20.3)

3番手で折り合い、4角で先頭へ。2歳牝馬として異次元級のレコードで圧勝。武豊騎手は「このスピードならどこでも通用」と評価。阪神JFへの期待が最高潮に。

2006/12/3 阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)2着

直線半ばで一旦は先頭に立つも、外からウオッカの強襲にハナ差屈する。マイル適性は示したが、最後に甘さが出た。

2007/3/11 フィリーズレビュー(G2)1着

休養明けも先行押し切りで完勝。桜花賞へ最高のステップ。

2007/4/8 桜花賞(G1)7着

好位追走から直線で伸び切れず。距離延長とレースの流れが噛み合わず、末脚勝負で分が悪かった。

2007/8/12 北九州記念(G3)6着

古馬混合戦で斤量53kg。先行も直線で伸びを欠く。馬体の張りや状態面にやや課題。

2007/9/30 スプリンターズステークス(G1)1着(不良馬場 1:09.4)

不良馬場の中山1200m。スタート直後からハナを奪い、ラチ沿いをロスなく運んでそのまま逃げ切りV。3歳牝馬による古馬混合短距離G1制覇という快挙を達成。中舘英二騎手は「馬場が悪い方が、この馬のスピードが際立つ」と回顧。

2007/10/27 スワンステークス(G2)14着

叩き合いに持ち込めず大敗。スプリンターズSの反動や疲労の影響が指摘された。

2008/2/10 シルクロードステークス(G3)10着

復帰戦も本来の先行力が見られず。レース後に体調不良が表面化し、以降は戦列を離れる。






成績表(全11戦)

日付 競馬場 レース(格) 距離/馬場 着順 騎手 斤量 タイム メモ
2006/07/22 小倉 新馬 芝1200 良 2 武豊 54.0 1:08.2 初戦で資質示す
2006/08/06 小倉 未勝利 芝1200 良 1 和田竜二 54.0 1:08.9 逃げ切り完勝
2006/09/03 小倉 小倉2歳S(G3) 芝1200 良 1 鮫島良太 54.0 1:08.4 重賞初制覇
2006/11/05 京都 ファンタジーS(G3) 芝1400 良 1 武豊 54.0 R1:20.3 2歳牝馬レコード
2006/12/03 阪神 阪神JF(G1) 芝1600 良 2 武豊 54.0 1:33.1 ウオッカにハナ差
2007/03/11 阪神 フィリーズレビュー(G2) 芝1400 良 1 武豊 54.0 1:21.8 前哨戦を完勝
2007/04/08 阪神 桜花賞(G1) 芝1600 良 7 武豊 55.0 1:34.9 距離延長で甘さ
2007/08/12 小倉 北九州記念(G3) 芝1200 良 6 岩田康誠 53.0 1:08.1 古馬混合で試金石
2007/09/30 中山 スプリンターズS(G1) 芝1200 不良 1 中舘英二 53.0 1:09.4 3歳牝馬でG1制覇
2007/10/27 京都 スワンS(G2) 芝1400 稍重 14 中舘英二 55.0 1:22.3 反動で大敗
2008/02/10 京都 シルクロードS(G3) 芝1200 稍重 10 武豊 56.0 1:10.0 体調不十分






引退と急逝

2008年春の高松宮記念を目指して調整中、3月下旬から体調を崩し、4月にX大腸炎を発症。栗東トレセン診療所での加療が続いたものの、症状は重篤化し、2008年4月21日に急性心不全を併発して急逝しました。享年4歳。担当者は「最後まで走る意思を失わない瞳だった」と涙ながらに語っています。






競馬界への影響

現役トップスプリンターの突然の死は短距離界に衝撃をもたらしました。とくに当年の高松宮記念の勢力図は大きく変化。これを契機に、トレセンや牧場では消化器系疾患への予防意識が高まり、水質管理・飼料衛生・クーリングダウンの方法改善などの取り組みが強化されました。






追悼コメント

  • 武豊騎手:「速さだけじゃなく、勝負根性のある馬でした。あのスプリンターズSは忘れられない」
  • 中舘英二騎手:「雨の中であれだけスピードを持続できる馬はそうはいない」
  • ファンの声:「まだ4歳…もっと走る姿を見たかった」「真っ直ぐな走り、絶対に忘れません」






牝馬スプリンター史への影響

アストンマーチャンは、3歳牝馬でも古馬混合のスプリントG1を制し得ることを示した先駆け的存在でした。この勝利は後進の牝馬スプリンターに勇気を与え、その後の短距離G1戦線で牝馬が主役を張る流れを加速させました。道悪での高い機動力とスピード持続は、育成モデルの一つとして今も語り継がれています。






まとめ(総評)

強み:スタート直後の二の脚、圧倒的な先行力、道悪でも崩れないフォーム。
課題:マイル以上での末脚勝負は最上位相手に分が悪い局面も。コンディション維持の難しさ。
レガシー:短い現役生活ながら、3歳牝馬でのスプリントG1制覇という勲章を刻み、“速さの純度”を体現した名牝として記憶され続ける。

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